
アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
ぬかるむ歩道を歩ける歩道に
2025年12月24日皆様こんにちは。日光国立公園管理事務所の鈴木研司です。
季節はすっかり「冬」になってしまいましたが、今年の夏を思い返すと奥日光も暑い夏でした。気象庁のアメダス(奥日光の中禅寺湖周辺)による最高気温を見ても、30度になる事はほぼないので日陰で静かにしていれば涼しい風がそよぎ快適そのものです。とは言え夏の日差しには厳しいものがあり、動いていると汗は止まりません。このような夏に実施した日光パークボランティア(以後NPVとします)の活動の一つについてお伝えしましょう。
奥日光には湯川沿いに戦場ヶ原と湯滝を結ぶ歩道があります。この湯川沿いの歩道は2019年の台風災害で通行できなくなっています。現在はこの不通区間に迂回路を作り利用しています。
【晴れた日が続いた後の迂回路の様子です。】

森林の中に作った迂回路は、人が歩くことで生じる踏圧に弱く、植生は後退し、地面は固くなります。降った雨は地中にしみ込まず、水たまりを作り泥沼のような状態になります。利用される方は泥濘を避けて歩道の端を歩きます(私も同じです)。そのため幅1.5mほどの歩道は、今や大通りのようになってしまいました。
【ひとたび雨が降ると、数日はこの状態です。】

多くの方から「何とかならないかな。」と言われ、これまでのNPV活動では泥濘の水を排水する方法を検討し試してきました。NPVのメンバーは泥まみれになって作業してくれました。しかし一時的には改善しますが解決には至らずという状態が続きました。このような状況の中、今年の5月から9月までの5か月に渡りNPV、事業者、行政機関が協力し新たな方法で迂回路の泥濘対策を行いました。
きっかけとなったのは、林野庁の日光森林管理署からの「間伐材の樹皮のチップを使って良いですよ。迂回路に撒けば歩けるようになるのでは。」という話でした。湯川沿いの本来の歩道が歩けるようになれば、迂回路は自然の状態に戻します。自然に戻せるもの、現地にあるものを利用して対策を行うことが必要なので、間伐材の樹皮チップはこの条件に見合う物でした。ヤシ土嚢(ヤシガラ繊維で作られた土嚢で、やがて自然に戻る素材です。)に樹皮チップを詰め、泥濘に敷き詰め歩道を確保する方法を実施しました。
【間伐材の樹皮です。これをヤシ土嚢に詰めます。】

NPVでは全体の作業に先行して、ヤシ土嚢の作成と敷設を一部区間で行い、作業方法の検証や効果の確認、問題点の洗い出しと検討を行いました。その後は全体作業の中だけでは終えられなかった箇所の作業、敷設後の点検やメンテナンス、そして植生復元のための侵入防止柵の設置まで実施しました。
【泥濘の箇所を確認し、敷設範囲にピンクのテープで目印をつけます。】

泥濘は100m以上あり、大量のヤシ土嚢を運ぶ必要があります。NPVの屈強なメンバーは背負子に5袋も載せて何度も運びます。観光で来られた方からは、「何をしているのですか。」「珍しいものが見られた。」「お疲れさまです。」「ありがとございます。」と様々な反応がありました。
【土嚢を背負子に載せ運びます。】 【天気の良い日もありました。】

【土嚢を敷設します。】

【歩いて確認します。】

敷設したばかりですと、観光で来られた方は邪魔をしてはいけないと思うのか、土嚢の上を歩いてはくれません。NPVのメンバーはその度に「土嚢の上を歩いて良いですよ。」「いや歩いてください。その方が土嚢は早く馴染んでくれます。」と声を掛けます。「まだ安定していないので気を付けてください。」という言葉も忘れてはいません。
【侵入防止柵の杭を打ち込む。】 【ロープを張る。】

【完成です。】
多くのNPVメンバーが労力と時間をかけて、雨の日でも歩ける歩道を作ってくれました。本当にNPVの皆様には感謝しております。
完成はしましたが、間もなくヤシ土嚢は分解していきます。土嚢の状態の確認とメンテナンスを欠く事はできません。NPVのメンバーがいるからこそできる方法ですが、泥濘対策の一つとしてこの方法は有効と考えます。本来の歩道が使えるようになるまで、来年も泥濘との戦いが続きます。