関東地域のアイコン

関東地方環境事務所

アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]

関東地方環境事務所のアクティブ・レンジャーが、活動の様子をお伝えします。

小学6年生校外学習 父島から乳房山へ!

2025年12月26日
母島 那須瑞生
母島自然保護官事務所の那須です。
南の島、小笠原も最近は涼しくなりました。
小笠原には秋、冬ごろからザトウクジラが訪れるようなので、楽しみにしております。
すでに冷え込んできた地域にお住いの方もいらっしゃるかと思いますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
 
 
以前、母島の小学3年生が乳房山に挑戦した話(小学3年生校外学習 乳房山登山! | 関東地方環境事務所 | 環境省)を書きましたが、今回は10月中旬頃、父島から小学6年生が来て、乳房山に登った話を書こうと思います。
 

父島について

小笠原諸島 父島の人口は約2000人。人口約400人の母島には母島小中学校という小中一貫の学校が1校だけありますが、母島のおよそ5倍の人々が住んでいる父島では小学校、中学校、高校がそれぞれ1校ずつあります。

今回は、小笠原小学校から6年生が『母島移動教室』として、2泊3日で母島の自然や文化を学びに来てくれました。

乳房山登山

その『母島移動教室』2日目の行程として乳房山を登り、環境省と東京都レンジャーで、2つに分かれたそれぞれの班の案内を務めました。
 
小笠原母島に朗らかな朝日が射す、穏やかな朝8:30。

6年生9名、先生方3名、東京都レンジャーの方1名と私、計14名で出発です。
6年生の皆さんはカバンにフェルトのてるてる坊主をつけていました。今日無事晴れるようにと願いをこめて、小笠原小学校の下級生が作ってくれたそうです。そのおかげか、天候はここ数日不安定で心配でしたが、何とか晴れてくれました。
 
前回同様、西側から登り東側へ一周して降りるルートとなります。
登山口に置かれた外来種除去装置
外来種除去装置
乳房山の登山口には、このような装置が備え付けられています。外来生物を山に持ち込まないようにするためのものです。木箱を開けて中の説明書通りに靴や衣服の汚れを落とし、酢酸スプレーで消毒を行い、登山開始です。
 
乳房山西ルートは登山開始後すぐに急勾配の坂が始まります。私は毎度ここで登り始めたことを小さく後悔し、いやいや登り進めて傾斜が緩やかになると調子を取り戻すので、子供たちもここで一度疲れてしまうのではないかと思っていたのですが、6年生ともなるとそれほど疲れた様子を見せず、サクサクと登っていました。

山頂まで半分を超えたあたりで、ハハジマハナガサノキの果実がなっていました。
ハハジマハナガサノキの果実
宇宙生物?小惑星?上手く例えられませんが、ボコボコした不思議な形の実です。

ルートの途中、大きなガジュマルの前にこういった窪みのようなものがありました。
森の中にある石製の幅1m、深さ30cmほどの浅いくぼみ。
サトウキビのかまど
これが一体なにかわかりますか?


都レンジャーの方からこれがかつて使われていたかまどと聞いて、子供たちは驚いていました。
……私も驚きました。
何度か目にしているのですが、漠然と水回り関係の何かだろうと思っていました。
サトウキビを煮詰めるためのかまどだそうです。温暖な気候の小笠原では、戦前はサトウキビの栽培が盛んでした。現在はほとんど栽培されておりません。

 
木の根元に近い幹の分岐に取り付けられた、おそらく陶製の大きな皿。給水装置。中に水が張ってある。
給水装置
母島の希少な鳥類の水不足対策に、母島には陶製の給水装置が置かれている場所があります。給水装置に水を入れてしばらく静かに待っていると、小鳥たちが給水と水浴びにやってきました。
給水装置に集まるハハジマメグロ2匹
ハハジマメグロ
ハハジマメグロ1匹が水浴びをしている。
メグロの水浴び
メジロのような円形の白い模様が目の周りを縁取り、更にその周囲を大きな三角形の黒い模様が囲っている小鳥がハハジマメグロです。
メグロは現在母島にしかいない、メジロ科に属する固有の希少な鳥類ですが、母島では人里でも山中でもどこでも見かけます。本土でいうところのスズメくらい身近な鳥なので、住んでいるとそのことを忘れそうになります。
 
日本の太平洋側には、本土のメジロの亜種が生息する島々が多くあります。母島に在来のメジロはいないのですが、同科別属のメグロはいます。島内でよく見られるメジロは、どうやら100年ほど前に他の離島から来た国内外来種のようです。

メグロに続いて、オガサワラヒヨドリがやってきました。
給水装置の縁に留まるオガサワラヒヨドリ
オガサワラヒヨドリ
メグロに比べると一回り大きいため、オガサワラヒヨドリが現れると給水装置は独占状態です。メグロは周辺の枝に留まりながら様子をうかがっていましたが、ヒヨドリが去るまでは近寄れませんでした。

さらに登っていくと、2種類のオカモノアラガイが偶然隣り合った葉の裏側に居ました。
細長い2枚の葉にそれぞれ1匹ずつ着いた、オガサワラオカモノアラガイとテンスジオカモノアラガイ
オカモノアラガイ2種盛り
左がテンスジオカモノアラガイ、右がオガサワラオカモノアラガイです。父島にはこの2種はいないので、この登山で初めて見た子も居たことでしょう。
 
群生した6本のムニンシュスラン
ムニンシュスラン
この時期よく山道の脇で花を咲かせているのがムニンシュスランです。
うっかり踏んでしまいそうな位置に生えていることが多く、足元に注意して登っていきます。

 
オオタニワタリの葉の上に付着したオガサワラキララゴケ
オガサワラキララゴケ
オオタニワタリの葉の表面によく付着しているオガサワラキララゴケ。これまた例えるのが難しいですが、放射状に伸びているので部分的にはヒトデ、花火、雪の結晶などに似ている気がします。
みなさまは何に似ていると思いますか?
母島ではオオタニワタリの葉の上を見れば簡単に見られますが、世界的には珍しいようで、絶滅危惧種です。

 
「乳房山登頂記念 463m」と書かれたレリーフの上に白紙を押し当て、上から鉛筆でなぞり石刷りをしている。
石刷り
乳房山の山頂の碑にはレリーフがあります。登山前に観光協会で登頂記念証キットを購入し、山頂でレリーフを石刷りして観光協会に持っていくと、登頂記念証がもらえます。
子どもが刷っているところを
「以前見たものよりなぜか紙が小さくて、なぜかレリーフがはみ出ているな~」
などぼんやり思いながら手伝っていたら、どうやら購入時に半分に折られた状態で渡された紙を、そのまま使っていたようです。気づきませんでした……。

 
木の枝の上に留まるオガサワラトカゲ
オガサワラトカゲ
山頂にて。小笠原諸島ではよく見るトカゲです。ニホントカゲの子供くらいの大きさで、それ以上大きくはなりません。たいてい人の気配を感じるとすぐに逃げてしまうのですが、この子はこの位置で日光浴をしたいのか、近くにたくさん人がいる中でも逃げ出さずにジーッと留まっていました。


山頂の展望台からは石門崎、東崎が望めます。
展望台から見下ろした母島東側の海と石門崎
石門崎
展望台から見下ろした母島東側の海と東崎
東崎
この展望台は霧がかかっていることも多いのですが、この日は少し曇りつつも、景色をよく見ることが出来ました。

 
海の見える開けた尾根に生えたシマザクラ
シマザクラ
山頂から少し東に進んだ先ではシマザクラが多く生えていて、花が咲いていました。
サクラの仲間ではありません。サクラの生えていない島でも見られる薄桃色の花ということで、シマザクラなのでしょう。

 
白い花を咲かせるシャリンバイ
シャリンバイ
先程の写真の右下にも葉がうつっていますがシャリンバイです。どちらかというとこちらの花の方がサクラに似ている気もしますが、漢字で書くと車輪梅。ウメの花に似ていることから付けられました。シャリンバイ、サクラ、ウメはいずれもバラ科に属します。
 
長い下り道をサクサクとくだっていき13時頃、登山開始から4時間半で無事全員下山しました。
予定より大幅に早く終了しましたが、まだまだ子供たちは余力を残している様子。これから海で遊ぶ予定のようです。
前回の小学3年生も元気いっぱいでしたが、やはり小学6年生ともなるとどの子も体力がありました。
 
大人になると3年間で体力がおのずと増えるようなことはなく、むしろ意識して運動をしない限りは自然に落ちていくものなので、子どもの成長の速さに驚かされます……。
次に、子どもたちが母島に来るのはいつでしょうか。さらに一段と大きくなって、また登っていただきたいと思います。
 
乳房山、いつかまた!
 

小笠原世界遺産センター公式Instagram

「世界自然遺産 小笠原諸島」の最新情報や季節の見どころ、イベント情報をお届け! 

ここにしかない貴重な自然の魅力を、写真や動画で発信しています。
小笠原世界遺産センター公式Instagram